「・・・あいつ・・・」 -regret- ディアッカはフレイと呼ばれた少女に覚えがありイザークと同じく眉を寄せていた。 再びアークエンジェルに来た時にはもういなかった、自分を撃った少女。 ミリアリアに転属命令が下されたと聞いていたが、まさかまたここで会うとは思ってもみなかった。 「コーディネイターなんて・・・みんな死んじゃえばいいのよ!!」 そう叫び、引き金を引いた彼女を思い出す。 あの時自分がミリアリアに言った言葉は聞いていないだろうが、間接的に傷つけてしまった事は事実だ。 彼女はイザークを見ていた為気付いていないのだろうが、もどかしさから歪んだ顔になっていたに違いない。 「・・・イザーク、どうした?」 「・・・・・・。」 少しの間沈黙が流れ、ディアッカがイザークの様子がおかしい事に気付き声を掛けた。 だがイザークはずっと閉まった扉を重視していて、ディアッカの言葉が聞こえたかどうかも怪しい。 だから自分の直感を頼りに彼が思っているだろう事を言ってみた。 「何?お前もあの女の事知ってんの?」 「・・・・・・。何でお前も知ってる。」 「・・・何でって言われると・・・なぁ・・・。」 ディアッカは自分がナチュラルの女に撃たれそうになった事を話したくないらしい。 言ったら、絶対に鼻で笑われると思ったから。 しかしイザークの形相に言い訳は通じないと判断し全て話す事にした。 「あいつ、俺を撃とうとしたんだよ。」 「・・・何?」 「まぁ、アレは俺がいけなかったんだけどな。それで、カッとなったんだろ。」 「・・・・・・。俺は、クルーゼ隊長の傍にずっと付いてるのを見た。」 「・・・は?何だよそれ。」 正直に話したのはいいが、次の言葉に唖然とする。 傍に付いていたというのはどういう意味だろう。ザフトにいたのなら捕虜としてではないのか? そんなディアッカを見て、イザークは面倒臭そうにその経緯を説明した。 「彼女は鍵だ、と言ってずっと側に付けていた。何故そんな扱いをしたのかは俺にも分からん。」 「かわいい子だよな。・・・まさかクルーゼ隊長に変な趣味があったとか・・・」 「そんなわけないだろう。何か目的があったんだ。彼女を使って成し遂げられる事がな。」 「なんだそりゃ?」 「だからわからんと言っただろう。ただの予測だ。」 ディアッカはますます訳が分からないといった表情を見せ、やがて無意味さに気付き肩を落とした。 クルーゼ隊長はザフトにいるのだから、今ここでそんな事を言い合ったとしても全く意味の無い事。 それは二人に十分理解できるものだったが、イザークはその話は終わりだとでも言うようにディアッカの 顔を正面から見つめ、いや睨んだと言ったほうが正しいだろうか、呟いた。 「・・・お前の目的は何だ。」 「目的って・・・」 「何故俺をこんなベッドもない無機質な部屋に押し込めるのか、と聞いている。」 いきなり本題に入りやや躊躇したディアッカだったが、そこは場数を踏んだ彼の本能とでも言うべきか 一気に表情を切り替え、真面目な話をするぞとでも言いたげな態度でイザークを見つめた。 そして、五秒は経っただろうか、ディアッカは一つ深呼吸をし、話し始めた。 「まず質問させて貰う。お前は何でアークエンジェルを庇った?」 「・・・・・・ここで落とされるというのは、納得がいかなかったからだ。俺だってザフトのやり方が全て正しい とは思えない。どうせなら意地でも戦争を終わらせてから落ちろ、と思っただけだ。」 「・・・お前の発言が正しいのかムカつくのか分からないんだけど。」 「・・・・・・俺はザフトだ。別にお前らに加担しようとした訳じゃない。」 「要するに、意志はとりあえず同じって事だな?」 「・・・・・・まぁ・・・平たく言えば、そういう事だ。」 イザークはしかめっ面をさらに濃くさせ、照れ隠しのように横を向いた。 プライドの高い彼が結論を認めるのは一苦労だったが、それでも思いは通じた。 ディアッカは改めて「それで・・・」と話を戻し、本題へと移る。 「お前は、地球軍が嫌いか?ナチュラルは、憎いか?」 「地球軍?あんな卑怯者たち、好きだと言う奴の顔が見てみたいな。」 「ナチュラルは?」 「・・・・・・。別にナチュラルが憎い訳じゃない。地球軍の卑劣なやり方が気に食わないだけだ。」 「ここには元地球軍がわんさかいるぞ。そんな奴らと一緒に行動できるのか?」 ここまでくれば、さすがのイザークも何故この部屋に閉じ込められたのか、何故ディアッカがこんな質問を しているのかが分かった。 彼の顔がみるみる変わっていくのがディアッカにははっきりと分かった。 「・・・・・・話が読めてきたぞ。お前は俺がナチュラルを見下し、卑劣な言葉をかけ、争い事が起きる事を 警戒している。・・・違うか?」 「・・・いや、俺はお前がアークエンジェルの中でうまくやっていけるかって心配を・・・」 「同じ事だろう!!」 声を張り上げ、震える拳を慢心の力で机に叩く。ドン!!と強烈な音がした後も二人は視線を外さない。 イザークは今、明らかに自分を見下されたように感じたに違いない。そうでなければ、ここまで取り乱す 事は無いはずだ。 ディアッカはそこで初めて視線を外し、ふう、と息を吐いた。しかしそれがイザークの勘に触ったらしく 勢いよく胸倉をつかまれ物凄い形相で睨まれる。 それでもディアッカは冷静沈着。そしてそのまま確信的な一言を紡いだ。 「・・・キラ・ヤマトに会ったら、こんな事しないって言い切れるか?」 「・・・っ・・・」 「あいつはいい奴だよ。けど、優しすぎてちょっとお人よしなんだな。それがお前の勘にさわる。 こういう事になるのは目に見えてるんだよ。でもお前の味方はここに誰一人いない。まぁいるとしたら 俺ぐらいだな。明らかにお前のほうが不利だし、嫌な目で見られるぞ。 ・・・お前は、キラ・ヤマトがにこにこ笑って自己紹介してきたら、こんな事しないって言い切れるか?」 「自身持って"しない"って答えられるんなら、ここから出してやるよ。」 ディアッカは、ひと気の無い薄暗い通路を俯き気味に歩いていた。 結局イザークは何も言う事が出来ず、時間が経つに連れディアッカの胸倉を掴んでいた手の力も、 物凄い形相も、段々と弱まっていった。 終いには落胆したように、興奮して立ち上がった足を曲げ大人しく椅子に座った。 俯いていた為どんな表情をしていたのかは分からなかったが、揺れる銀髪が何故か"落胆"を物語っている ようで、ディアッカは渋々と部屋を出て行った。 背中には、先ほどまでの反論の声は掛からなかった。 やはりイザークには、許す事が出来ないのだろうか。 いや、許してはいけない事なのかもしれない。だがその罪をお互い認め合う事は、出来ないだろうか。 ・・・無理だろうと、ディアッカは思った。 キラとアスランのようにはいかない。二人は昔同じカレッジで同じ時間を共にし、双方とも思いあった ・・・というのは言い方がおかしいかもしれないが、知りすぎている相手だった。 だから情けをかけずにはいられなかったし、そのおかげかそれほど多くの罪を分かち合わなかった。 しかし一つだけ犯してしまった罪は、今まで何もなかった事の代償とでも言うようなモノだった。 お互いがお互いの大切な友を、手に掛けてしまった。 それでも、今二人が向き合って、笑い合っていられるのは、お互いをよく知っているから。 だから、許すことは出来なくても、"殺した"という罪を認め合うことが出来た。 だが、今回の問題はそれとは大幅に違う。 イザークとキラに接点など何一つ無い。他人どおしなら、どんな殺し合いでも本気で出来る。 許せない事もそれと同様。イザークはキラを、理屈で許す事が出来ないのだ。 これではイザークは、ザフトに戻れるまであの部屋から出られないのではないだろうか。 今頃彼は苦しんでいるだろう。何故あんな奴の事を許さなくてはいけないんだ、と。 やはり、戦争とは、多くの人々に多大な傷を残すものだった。 |