任務報告に木ノ葉に戻って、帰ってきたのが早朝。 眠いという顔は出さないけれど、半分失敗状態での報告は本当に久しぶりで。 落胆の表情を 彼女に見破られてしまった。 -罪の痕- 其ノ六 いつものように女将さんの話を断り、もう何度目になったであろう今日。 何故か少し違う言葉をかけてきた。 それは、私が待ち望んでいた言葉。 「・・・はぁ・・・。」 「・・・女将さん?」 「もういいよ。あんたに次期女将を譲るのはやめる。」 突然の思いがけない言葉に唖然としながらも、素直に言葉を繋げる。 「・・・すみません・・・ありがとうございます。」 「どっちか一つにしな。両方言われちゃあたしも何言っていいか困るじゃないか。」 「・・・この宿に勤めていられるのは、世話をして下さった女将さんのおかげだと思っています。 このご恩は、たとえ女将にならなくとも一生忘れません。これからも精一杯頑張ります・・・。」 「立派に育ったのにねぇ・・・最後の望みだけは聞いてくれないなんて、あたしの育成は間違ってたのかね。」 相変わらずの厳しい言葉を背後に聞きながら部屋を出た。 「風菊さん!ご指名のお客様ですよ〜!」 「あ、はい!分かりました!」 どうしてこの宿には指名制度などというものがあるのだろう。 遊女屋じゃあるまいし、どうにもおかしい。 お女将さんが金稼ぎの為に導入したんだろうと予想は付くが。 「いらっしゃいませ。私、仲居の風菊と申します。此処からは私がご案内をさせて頂きます。」 人柄良く挨拶をし、各場所を説明しながら部屋へ向かう。 その間私を指名したであろう男が気持ち悪く詰め寄ってくる。 もう慣れてしまったが、やっぱりおかしいと思いながらも仕方なく対応しながら進む。 「こちらがお客様のお部屋になります。簡単な説明をさせて頂きますと・・・」 じろじろと見つめてくる男から視線を避けながら早々と話していく。 全ての説明が終わると、適当に親切語を投げかけつつ足早に部屋を去った。 仲居の待機室とも呼ばれる部屋に足を踏み入れると、休憩時間に入ったらしく皆くつろいでいた。 私だけ取り残されたような感覚に陥りながらも挨拶をする。 「お疲れ様です。」 「あ、風菊!お疲れ様〜。大変だったでしょ今の客。」 「明らかに風菊目当てです〜って顔してたもんね。」 「そうそう。あそこまでの客って最近いなかったわよね!」 「大丈夫だった?何かされてない?」 皆思い思いの言葉で話しかけてくれた。 唐突でほぼ同時に放たれた言葉達に私はついていけず、ただ唖然としていた。 しかしそれも長くは続かず、戻った思考で精一杯の言葉を発した。 「大丈夫、もう慣れちゃったわ。心配してくれてありがとう。」 「何よ、今更礼言われても照れるじゃない。」 「ホントに大丈夫なの?」 「大丈夫だってば。」 そう言って笑顔を見せると、皆はほっと胸を撫で下ろし、安心する。 皆で楽しく話すも、彼女には何故かいつも知られてしまう、私の気持ち。 隅でそっと見ていたらしい真琴さんは、私の着物の裾を掴み皆の輪から外した。 「・・・真琴さん?」 「ちょっと真琴、何すんのよ。風菊さんは今私達と話してたんだけど。」 「あんた達との話は後でもいいでしょ?こっちは今じゃないといけない約束があるのよ。」 ね?といきなり振られた私は昨夜の出来事を思い出した。 偶然任務に行く道ですれ違い、口止め料に新しく出来た甘味店をおごるという約束をした。 でも今でなくても、いつでも行けるんじゃないかと思うが、真琴さんは一度言ったらそれを曲げない。 「・・・皆、ごめんね。後でまた話、聞くから。」 「じゃ、あたし等はそういうことで。」 私は真琴さんに腕を引かれ、半ば流されるように甘味店へ連れて行かれた。 「いらっしゃいませ〜!」 店内は宿と違い華やかな雰囲気と店員の声に包まれていた。 真琴さんは常連のようにづかづかと進んでいく。 いつの間にか解かれた腕をさすりながら、置いていかれないように付いていった。 「じゃああたし達はフルーツのゼリーね。すいませ〜ん!」 勝手に注文品を決められ、気付くと真琴さんは店員に注文していた。 普通だったら驚く事だろうが、私にとってはこれが普通。 思わず笑がこみ上げてきた。 「はい、以上で。よろしく御願いしま〜す。・・・って風菊、何笑ってんのよ。」 「や・・・めくるめく真琴さんワールドが展開してるな〜と思って。」 「・・・何、それ。」 私はクスクスと、笑が止まらなかった。 すると、真琴さんは微笑み、私に思った事を話し始めた。 「やっと笑った。」 「・・・え?」 「いや、あんたさ、朝から全然笑わないなと思ってたから。」 「・・・笑ってたわよ?」 「あんなの風菊の本当の笑顔じゃないでしょ。」 また、分かってしまうのだろうか。 いつもそう。真琴さんにことごとく見破られてしまう。 図星をつかれ、私から笑顔が消える。 「昨日の彼の事?何かあったの?話してみなさい。」 「・・・彼・・・彼とは・・・ね。」 昨日の発言はまんざら嘘ではない。 でもさすがに昨晩あった事を話す訳にはいかない。 どうしようかと、悩み悩んだ末至った嘘を並べてみる。 「昨日は・・・話があるって呼ばれたの。」 「うん・・・それで?」 「彼・・・仕事で他国に行く事になったんだって。・・・私とは二度と会えなくなるって・・・。」 「・・・一緒に行くって言わなかったの?」 「・・・言ったわ。」 「彼は何て?」 「・・・風菊が仕事を頑張ってるのは知ってるし、それを壊したくないから一緒には行けないって。」 「そう・・・。」 内心、とても焦っていた。 普段はただの女の子でいようと心掛けているが、今回ばかりは忍特有の無表情を作った。 今はどんな表情をしても、真琴さんには分かってしまうと思ったから。 「悲しいね。」 「・・・・・・。」 「でも、あんたを思っての別れだったんでしょ?なら幸せもんじゃない。」 「そうなのかな・・・。」 「そう思わなくちゃ、彼に失礼でしょ?」 「・・・そうね。」 私の言葉のすぐ後、頼んだ品がテーブルに並んだ。 落ちそうになる程沢山乗ったフルーツに気をつけながらゼリーを掬い口に運ぶ。 甘い中ほのかに酸っぱい味が、今の私の気持ちを表しているようだった。 でも不思議と悲しい気持ちにはならず、むしろ温かい気持ちに包まれるような感覚だった。 「おいし〜い!やっぱ調べた通りの味ね。」 「真琴さんって本当にこういう甘味店には詳しいわよね。」 「甘いもの大好きだもん。これがなくちゃ人生やってけないわよ〜!」 大袈裟だな、と思いつつも、明るく振舞ってくれる真琴さんに感謝した。 真琴さんが居なければ、過酷な心との戦いに押しつぶされていたと思う。 あの日の悪夢にうなされながら、今頃・・・。 「よしっ。次はあの店に行くわよ〜!」 「真琴さん・・・もう休憩時間過ぎてるわ・・・。」 「え!?・・・女将さん、怒ってるかな・・・。」 真琴さん、ありがとう。 |