「隊長・・・貴方は、行かなくちゃ。」
「嫌・・・嫌です・・・っ」
嫌だ。行きたくない。
皆を放って一人帰る事が正しいなんて 何て不純な世界なの。
私の為に 皆死ぬの?
・・・こんな私の為に 死ぬの?
「・・・ぃやああぁぁぁああああっ!!!!」
-罪の痕-
其ノ五
ガバッ
「・・・・・・は・・・っ」
・・・また、あの日の夢。
どうして忘れる事を許さない?今見ても、何度も何度もうなされるあの日を。
「・・・馬鹿じゃない・・・」
決まってる。
あの時に背負った命と、感じた全てを覚えている為。
あの過ちを二度と繰り返さない為に。
汗ばんだ寝間着を剥がすように脱ぐ。
軽く印を結び、ドロンという音と共に変わる風貌。顔付から身体から、全て大人のものになる。
あっという間に、15歳から25歳の自分に変わる変化の術。
今宵の行為に備えて着物を慎重に選び、慣れた手付きで袖を通していく。
少しばかりきつくなった腹部を押さえ、小さく吐息を吐いた。
長い髪を上にもっていき綺麗な髪留めを付ける。
全てが特注品の様な装飾に身を包むと、すっと立ち上がり扉へ向かう。
忍の表情を浮かべながら。
時刻は夜中に近い。
滅多に人が通らない道を選び、静かに歩く。
・・・そこで厄介な人物を見つけた。
「あれ〜っ風菊じゃない!」
「あ・・・真琴さん・・・?」
同じ宿屋で働く同僚。
こんな人気の無い場所で近しい人物に出会うとは思っていなかった。
普段ならそれ程驚きはしない。でも、今日は特別。
今の私はありとあらゆる高級品で包まれたような格好をしている。
「なぁにその格好。あんた、大名にでも呼ばれた訳?」
「え・・・何言ってるのよ。そんな事ある訳無いでしょ?」
「じゃ〜何?・・・あ!さては、彼氏とか?」
「・・・まぁ、そんな所。」
成り行きでこんなことを言ってしまったが、どうにか乗り切れた。
すると、真琴さんが驚いたような顔をし詰め寄ってきた。
「えぇ!?あんたそんなの居たの!?うわ〜初耳だわ。
でもこんな時間に会いに行くって事は・・・イケナイ関係だったりする?」
「・・・人聞きの悪い事言うわね。」
「違うの?面白くな〜い。」
人を面白がって楽しいかと言ってやりたい所だが、真琴さんとはこういう人だ。
長い付き合いの中、こういう発言には慣れてしまった。
「でも訳ありってのは否定しないわ。・・・そういう事だから、真琴さん、この事は皆に秘密にしてくれる?」
「ふふっ。いいわよ。黙っといてあげる。」
「・・・ありがとう。」
「この前出来た新しい甘味店、おごりなさいよ〜?」
「御安い御用。」
私がそう言うと、真琴さんは満足したように手を振り歩いていった。
しばらく行くと、勤めている宿屋が見えてくる。
昼間の印象がガラリと変わり、大きい建物だからか夜になると不気味に感じてくる。
しばらく見つめていると、ふと気が付く。
真琴さんが仲居の格好のまま歩いてきたという事は、今日の遅番だった筈。
おそらく住み込みの仲居も皆、今頃は寝床についているだろう。
滅多に無い都合の良さに、私はうっすらと笑みを浮かべた。
見慣れた暖簾をくぐって中へ入り、ちらちらと明かりが見える程の廊下に足を踏み入れる。
しんと寝静まった各部屋からは時々いびきが聞こえる。
そんな中私は足音一つたてず、気配を消して目的の部屋まで歩く。
途中まで来ると、気配を露にし仲居特有のゆっくりとした、静かな足取りになる。
・・・そうでないと、怪しまれるから。
真琴さんから大名の名前が出て驚いた。
今日のターゲットは、その大名の護衛をする忍だったから。
木ノ葉から知らされた情報によると、その忍は砂隠れのスパイらしい。
まんまと大名の護衛になりこちらの情報を入手していたという。
私に与えられた任務は、その忍の潜入理由を聞いた上で抹殺する事。
この国の忍ではない私が出向く必要は無い。何か問題でもあるのかと問い詰めた所、火影様は意外な情報を明かした。
最近、砂隠れがおかしな動きを見せているという。
詳しくは分からないが、と付け足された言葉は、火影様の苦い表情を表していた。
長い廊下を進み、目的の部屋で一度止まる。
扉に手を伸ばす、と、それが開き彼の手が伸びてきた。
腕を掴まれ無理矢理部屋の中に入れられると、扉が閉まり抱きしめられた。
「・・・びっくり、した・・・。」
「悪いな・・・久しぶりだったからよ。」
そう言うや否や、されるがままに口付けを交わす。私はそのまま身を委ねた。
彼のこの行動は、いつもと同じだから。
護衛任務という忙しさから会えない期間が長く、今回も相当久しぶりのような気がする。
その為仲が進展するのにかなりの時間が掛かってしまった。
「ん・・・いいわ。今日で・・・最後なんでしょ?」
「ああ・・・」
前回会った時に突然言われた別れ。
護衛任務の契約が終わるのが、おそらく次に会える時までだと告げられた。
まだ早いと判断するのが妥当の任務遂行も成功率が低くなった。
でも、やるしかない。
交わす言葉は極少。
ただ夜の暗闇に沈んでいく様に、勢いに任せて寝る。そんな関係。
それでも成立してしまうのが不思議だけれど、私にとっては好都合。
最後の日はいつもと特別変わる事無く、夜は更けていった。
「護衛任務って契約期間とかあるのね。」
何気なく聞き出した彼の任務内容に、何の疑いも無く答てくれる。
「他国の忍だったら当然あるさ。」
「あら・・・この国の忍じゃないの?」
「言ってなかったか?」
「えぇ・・・じゃあ如何して大名の護衛なんかしてるのよ。」
私の質問に彼は眉を細める。
平静を装っているつもりだろうが、私は少しの変化も見逃さない。
「・・・どういう意味だ?」
「だって、大名の護衛なんて自国の忍だって中々出来ない筈でしょ?それをどうして・・・」
「・・・へへ・・・お前、鋭いな。・・・まぁいいか。最後だし、話してやるよ。俺の秘密。」
「秘密・・・?何よ、面白そうね。」
いかにも楽しそうに笑みを浮かべる私。
こんな所で真琴さんの口癖を使うとは思っていなくて、言った後自分でも驚いた。
いつも一緒に居るせいか、少しづつ彼女に近づいているのだろうか・・・。
「誰にも話すなよ。お前を殺さなくちゃいけなくなる。」
「大丈夫よ・・・私は貴方を裏切ったりしない。むしろ秘密を共有出来て嬉しいわ。」
彼に寄りかかり、甘い声で言う。
すると彼はふっと笑い、楽しそうに話し始めた。
「俺は風の国のスパイなんだよ。」
「・・・スパイ?・・・何の目的で?」
「火の国の情報を知る為だ。」
「・・・え?」
火の国・・・?
私の故郷、木葉隠れのある火の国。
何故、彼の言葉からその国が出てくる?何故火の国の情報を・・・?
私は一瞬動揺してしまったが、幸いな事に彼は気づいていないらしい。
もっと、情報が必要だ。自国に関わる問題となれば尚更。
「・・・火の国に何かあるの?」
「まぁな。・・・っと、此処から先はいくらお前でも話せねぇ。バレたら殺されるからな。」
心の中で舌打ちをした。ここからが重要なのに・・・。
此処まで話したのに途中で止めるとは、それだけ重要な秘密が隠されているという事だ。
何とか聞き出そうと、彼に詰め寄った。
「どうせなら最後まで話しちゃえばいいじゃない。私と会うのも最後なんだからばれる事なんて無いわ。」
「俺は念には念を入れるタイプでな。今誰かが聞いてるかもしれねぇだろ?」
「・・・・・・。」
もう無理だ、と五感が伝えていた。
仕方無く、始末する事に決めた。
彼に勝敗を教えるように、体中からチャクラを放出した。
案の定、一瞬で顔を真っ青にし冷や汗を流す彼が目の前に居る。
「お・・・前・・・っ忍・・・!?」
「御免なさいね。実はそうなの。」
私の圧倒的なチャクラの量に、彼は諦めたように腰をおろした。
いや、腰を抜かしたの間違いだ。みっともなく膝を突いて私を見つめている。
私はクナイを彼の喉元に持っていき、淡々と話し始める。
「貴方の目的は何?何故火の国の情報を欲しがる?」
「・・・話せねぇって言ったろ?」
「言いなさい。」
喉元を少し傷付ける。
プツ、という音と共に血が出てくるも、彼は話す気配が無い。
実は私の方が余裕が無い。彼は最早死ぬ気で居るのだから。
「・・・拷問には絶対に耐えるタイプだと思ってたわ。」
「ああ、それには自身があるな。」
クナイを喉元から外しすっと腕を上げる。
そして、一瞬の内に彼の心臓目掛けて振り下ろした。
ドッ
彼は笑顔を浮かべ、息絶えた。
何から来た微笑なのかは分からない。諦めか、私に向けてのものか。
私にくれた笑顔ならいいなと、その時思ってしまった。
私はこういう任務では、ほとんどの場合相手に少なからず愛情を持ってしまう。
それでも殺せてしまう私は、やはりおかしいんだろうか。
忍は、愛情を持つと殺せなくなってしまうから、感情を捨てなくてはならないのに。
そんな私にも、誰に言われても殺せない位大事な人物が出来るのだろうか。
・・・きっと、もう居るんだ。
私はそれに気付かないふりをしているだけ。
悲劇の主人公気取りの、愚かな女。
それが今の私に最も相応しい言葉なんじゃないかと思えてくる。
それでも素直になれないのは、勇気が無いから。
もし神様が居るなら、なんでもします。
だから、私をあの日に連れて行って。
たった一つでいいから、過ちを正す事を、許して下さい。
もうちょっと男をお人よしに・・・というかヒロインを本気で好きだった感を出したかったなぁ。
そしてヒロインも、男を好きだった感を出したかったなぁ・・・。
完璧に感情を殺せてしまいプライベートでは素で振舞える彼女は根っからの忍体質ですなぁ。
しかしそれ故に自分には感情がないのかと悩むヒロインってのを書きたかったのです。
次回は真琴さんとの甘味店編(ちょっと違;
06/9/1
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