私の全てを分かってくれたら 貴方の事

























そこに在る証























その日は土砂降りの雨だった。





ミーアはコンサートを終えホテルで休息を取っていた。

彼女は部屋に入るなりベッドに飛び込んで、うつ伏せのまま数十分は動いていない。





今日の記憶が彼女の脳裏を過ぎっては消え、その度に顔が滲む。





コンサートは滞りなく進んだ。

今日の全ての予定が終わり、帰りの車に乗ろうとした瞬間







「お前なんかラクス様じゃない!」







歓迎するには相応しくない表情でミーアを睨み罵声を飛ばしてきた。

ミーアが偽者だと分かっているかは定かではないが、彼女を良く思っていないのは明らかだ。

周囲の助けもあり何とか平静を保ち帰ってきたものの、彼女の心に深く刻まれる事となった。



以来何もする気が起きず今に至る。









流石にこのままでいる訳にもいかないと思い、上半身だけ起き上がらせテーブルの電話に手を伸ばす。

夕食の手配を頼み、一言声を出せばテレビが付くのだがそれすらも面倒になり、電話の隣に手を滑らせる。

リモコンを掴むと、再びばふっ!ととベッドに横になった。



電源ONのボタンを押すと、言葉の途中から不自然な形で声が聞こえ始める。

何の話題かも分からぬまま、ミーアは次々とチャンネルを変えていく。







ふと、彼女の手が止まった。





画面に映るのは自分の顔。

時には苦しむような顔になり、時には両手をいっぱいに広げ話している。





ニュースで彼女の演説が流れていた。

解説者やキャスターはうんうんと頷きながら、彼女の事を称える様に話し合っていた。





「ラクス様」という名の彼女を。





カタカタとリモコンごと手が震える。

「ラクス」という言葉に異常に反応してしまう。聞く度に震えが強まっていくのが分かる。

そう呼ばれることが嬉しい筈なのに。

自身もそれを望んでいた筈なのに。





何故今の自分は拒否するかの様な反応をしてしまうのだろう。

彼女すらも答える事が出来なかった。





しかし、目尻に浮かぶ熱いものが答えと言えるのかも知れない。

































アスランは議長から貰った新しいMSやMA等の性能に関する資料に目を通していた。

今開発されている機体のデータは知っておきたかったし、議長に言われた言葉が気になったから。



「君が今後乗る可能性のある機体があるかもしれないからね。」



何を考えているか分からないが、それならば一通り見ておいて損は無い。

休暇を利用してホテルを取る事にした。





区切りが付いたところで、量が半端でない事に気が付く。

本当に議長は何をさせる気なのかと些か疑問心が生まれるが、溜まった疲れには勝てなかった。





少し休もうと、ベッドに近づく足は急に動きを止めた。

アスランのいる部屋の窓からは外の風景が見えない代わりに中庭のようなものが見える。

あっという間に暗くなった外は雨の雫が延々と滴りぼやけて見える程度。





窓から漏れた雨の音が聞こえるのに気付くと同時に、この風景には不釣合いな色が見えた。

小さく見づらいが、段々とピンクが人の髪だということに気付く。







それが彼女だと気付くのに時間は要らなかった。







アスランは物凄いスピードでドアに向かい、一気に彼女の元へと走っていく。

コーディネイターというのも困りものだ。





視力の良い目に映ったのは、彼女の苦しそうな表情。















中庭に足を踏み入れると、芝生が雨を吸い込んでグショグショになった感触に顔を歪める。

全身がびしょ濡れの彼女はそんな事お構い無しに立ち尽くしていた。



魂の抜けた様な顔で、空を見上げていた。







「ミーアっ!」







彼女は突然の聞き覚えのある声にびくっと肩を振るわせた。

その声の主は、ここにいる筈も無い人物だから。



恐る恐る振り向くと、予想していたがそこにいる事が信じられない人物が目の前に立っている。





「・・・・・・アスラン・・・?」





驚愕の表情で彼の名を呟く。





それ以上言葉が出なかった。

心の底で一番望んでいたのがきっと彼だった。

彼に会えれば、この悲しみも迷いも全て消すことが出来る気がして。









「・・・どうした?」









その一言に、彼女の中に溜まっていたものがあふれ出した。





一気に溢れ出た涙はアスランからは雨と混ざって分からないだろう。

ミーアは彼の胸に思いきり飛び込んだ。







この行動にはアスランも流石に驚き、彼女の顔を見ようとした。



見えたのは、目を思い切り泣き腫らし尚泣いている顔。







「・・・ァ・・・スラ・・・」

「ミーア・・・?」

「私、もう駄目・・・駄目・・・なの・・・っ」







嗚咽の合間に微かに聞き取れるような声をアスランは必死に聞いた。

一体どうしたのだろうかと、彼はミーアに優しく尋ねる。





「・・・何が駄目なんだ?」

「自分を・・・偽る事に、っ疲れた・・・」





つまり「ラクス」でいる事に疲れた、という事だろうか。

そこでアスランの頭に疑問が生まれる。



彼女は自分からラクスになる事を望んだ筈だ。

なのに、何故偽者で居ることに疲れたと言うのだろうか。







だが、アスランは彼女にそれを問う事は出来なかった。



今問うと彼女が本当に壊れてしまいそうだと感じたから。







ミーアは離れかけたアスランの体に再びぎゅっとしがみ付いた。

アスランは、次第に震えていく彼女の腕を背中に感じ、顔を歪めた。











「私・・・アスランが居ないと駄目なの・・・!

 アスランが居ないと・・・この震えも不安も治まらないの・・・っ」











そう言ったままずっと震えているミーアを、アスランは優しく抱きしめた。

彼女は一度びくっと身体を震わせたが、次第に震えが治まっていった。









「ミーアは俺が守る・・・「ミーア」を絶対守るから・・・。」









ミーアは驚いたようにアスランに顔を向ける。

アスランはぐしゃぐしゃになった彼女の顔に手を添え、涙を指で拭った。











そして、二人の顔は自然に近づき、唇が重なった。






























すっごい久々に書きましたアスミア!

本当に随分と長い間期間をおいてしまったのでちゃんと書けるか不安でしたが・・・。

この話は昨日いきなり思いついたもので、自分でも信じられないくらい早く書き上げる事が出来て驚いております。

あ、それとタイトルは「clair」様でお借りしました。

文才の無い私がタイトルまで考えるのは無理がありましたので・・・。

では、後半に続きます。いきなりシリアス(ダーク)になるので覚悟して見てくださいね?

06/6/18




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