多くの人々がラクスの歌に聞き入っているその時 私の笑みは ラクスではなく ひたすらアスランに向けてのもの ラクスに向ける笑みなんて 必要無い pledge oneself to secrecy PHASE-04 ラクスの歌う曲が始まってすぐ会場の明かりが消えた。 ステージだけに灯るライトに皆一斉に注目する中、アスランはの手をずっと放さなかった。 ラクスは、ずっと歌っている。平和の歌を。私達の望む平和の歌。 望む形は違えども。 一曲歌い終わったところでステージの終わりを告げる、観客側のライトがうっすらと灯り始める。 歓声と拍手が飛び交う中、の瞳はラクスの後ろで楽譜をたたんでいるニコルを捉えて放さない。 は繋がれている手をぐっと握る事でステージに向いているアスランの視線をこちらに戻した。 「アスラン・・・」 「何だ?」 「ニコルってラクスと会った事ないわよね?」 「え?あぁ・・・直接会った事はないと思うが・・・。」 顎でステージ袖に去っていくニコルを差す。 アスランは疑問の表情を崩さずにの差した先を見ると、目を微かに見開いた。 ようやくが何を言いたいのか分かったアスランは困惑気味に彼女に問いかける。 「・・・何故ニコルがラクスと・・・?」 「分からない。あの子に何か吹き込まれたのかしら・・・弱みを握られたとか。」 「。」 ラクスはそんなことはしない、とでも言いたげな表情で見つめ返される。 「わかってる」と苦い笑みで返し再びステージへ視線を戻すと、ラクスが帰って来るのが見えた。 は急いで手を放すも、残った温もりにふと現実を突きつけられたような気がした。 彼とは、一緒になれないんだと。 熱が逃げないようにと、静かに、力強く拳を作った。 「!どうでしたか?」 「最高よ。ラクスの歌はいつも最高!」 「よかったですわ・・・アスランは?」 「ああ、よかったよ。」 「・・・そうですか。」 ラクスはアスランの感想を聞き、得意の貼り付けた笑顔を作り対応した。 今の言い方ははもちろん、ラクスにも分かる態度だった。 まるで心にもない事を言っているような・・・。 ラクスはアスランを愛していた。 婚約者と言いつけられた時からの仲だが、それでも名ばかりの関係で終わらせたくは無かったのだ。 二人はプラントの誇りだと、光だと、この先もずっと言われ続ける事を望んでいた。 「アスラン、婚約者には明るく接さなきゃだめよ。」 「・・・・・・!」 「・・・あ、ああ。すまない。」 「そうじゃなくても、私の親友なんだから。幸せにしてもらわなくちゃ困るわ。」 はアスランの態度に焦りを感じていた。 アスランはどうしてここまで嘘が下手なのだろうと思い、警告も含めて注意をした。 しかし、その言動がラクスには疑問を与える。 アスランはもしもの時こそ表情を崩すが、普段はポーカーフェイスを保っている。 それは彼と沢山の時間を共有してきたラクスが良く分かっている事だ。 しかし今の表情の違いは、そんな彼女がやっと分かる程度のものだった。 それなのに、はいとも簡単にアスランの表情の違いを見抜いたというのか。 仕事の話しかしないと言っていた彼女が。 「ああ、ラクスは俺が絶対に幸せにする。」 「・・・・・・アスラン・・・」 「今の言葉、裏切ったらただじゃおかないからね。」 「・・・、怖いですわ。」 「あら、そうかしら?」 クスクスと笑うラクスにが言い返す。 ラクスは、なら見抜くのだろう、と思い至った。 は勘が鋭い。おまけに洞察力もコーディネーターの中でさえずば抜けている。 それに、仕事だけの話しかしないといっても同じクルーゼ隊の中で過ごしているのだから 彼と仲の良い仲間と過ごしているうちに、彼の分かり難い表情も分かるようになるのではないか。 何より、自分が何を考えているのか分からない事が恐ろしかった。 こんな時に、こんな大切な日に自分は、とても恐ろしい事を考えていたのではないか。 「ねぇラクス。さっきラクスのバックでピアノ弾いてたのって・・・。」 「ふふっ・・・気付いて頂けました?」 「え?」 「!」 が声のした方へ振り向いてみると、丁度ニコルが向かってくるのが見えた。 の表情が安堵のものへと変わる。 「ニコル、どうしたの?びっくりしたわよ。」 「ははっ。嬉しいなぁ。あのさんがびっくりしてくれるなんて。」 「あのね・・・」 「ニコルさん、今日は有難うございました。」 「いいえ。僕の方こそ、ラクスさんとステージに上がれるなんて夢みたいでしたよ!」 ニコルはラクスやアスランと挨拶を交わし、一段落したところで再びへと向き直った。 は、何故ニコルがラクスのステージに参加していたのか聞きだそうとした。 「ニコル、ラクスと知り合いだったの?」 「いいえ。私はアスランからお話を聞いていたくらいですわ。」 「・・・じゃあ、どうして・・・」 「だって・・・」 「ニコルさん。」 ニコルはラクスに呼ばれると、アスランとの腕を引き会場外の廊下に出た。 は何が何だか分からず、困惑していた。 ニコルとラクスは、言うのをためらうように笑顔で向き合っている。 一方アスランは、二人が何を言おうとしているのか薄々感づいていた。 蚊帳の外になりつつも、三人の会話に耳を傾けていた。 「「、お誕生日おめでとうございます!」」 「・・・・・・え?」 は何を言われたのか分からず呆然としていた。 しかしすぐに状況を理解する。今日は自分の16歳の誕生日だった。 今まで軍の仕事に追われ気にも留めていなかったが、毎年こういった形で気付くのだ。 「・・・二人とも、その為にさっきのステージを・・・?」 「だって、去年は任務で何のお祝いも出来なかったじゃありませんか。今年は去年の分も 盛大にお祝いしなくては、と思ってましたのよ。」 二人の話によると、まずラクスはが喜びそうなプレゼントはないかと探した。 だが、長い間離れている為彼女の好みが変わっている恐れがある。 しかし、まだ平和だった頃、がラクスに呟いた言葉を思い出した。 "私、ラクスの歌は何十年経っても大好きよ" そして、アスランの話で「が家族のように思っている、ピアノを弾く少年がいる」という事は 聞いていた為、その少年にバックを任せることにしたそうだ。 「それで、わざわざニコルに頼んだの?」 「きっとニコルさんも、のお誕生日をお祝いしたいと思っている、と・・・。」 「僕も、プレゼント何にしたらいいのか分からなくて・・・ラクスさんと一緒にお祝いできるなら にとっても最高のプレゼントになるんじゃないかなって。」 「ニコル・・・」 ニコル、違うのよ。 ごめんね。私、ラクスは嫌いなの。 私は、ニコルが自分で選んだプレゼントを貰いたかったのよ。 「ニコル・・・ラクス・・・ありがとう・・・。最高のプレゼントよ。」 「喜んで頂けましたか?」 「ええ、もちろんよ!」 心にも無い返事をしてから、笑顔でラクスと向き合った。 暫くして、ラクスが「主役が外れてはいけませんわね」とアスランを連れ戻る事になり、も ニコルと共に会場へ戻っていった。 「・・・おめでとう。」 「・・・ありがとう。」 二人は、軽く挨拶をするだけだった。 いつも通りの盛大なパーティーが終わり、それぞれが帰路についた。 はラクスに泊まらないかと誘われたが、任務があるからと断った。本当は全くの嘘なのだが。 明日は休暇の日として自身で調整していた。 ラクスはパーティーを開く時、いつもアスランへの配慮を頭に入れている。 アスランの負担にならないように、休暇の日をあらかじめ聞いてから日時を決める。 はこの事を知っている為、毎回パーティーの翌日は明けておく。 ほんの一時我慢すれば、あとはアスランと二人きりで過ごせるから。 「来週ミーティングが入るみたいよ。クルーゼ隊の。」 「・・・俺もようやく任務に就けるのか。」 「嬉しい?」 「そりゃあ・・・」 上着を脱ぎながら先に知った自分達の任務について呟いた。 進行していく会話の中でアスランの嬉々とした表情に笑みを浮かべ、彼の頬を包みキスを落とす。 部屋の中、唯一光るスタンドライトの調整をしていたアスランはの行動に驚く。 その拍子に手がライトの調節部分を掠め、辺りが闇に包まれた。 二人とも突然の事に息を呑み、一瞬会話が途切れる。 「ぁ・・・、ちょっと離れてくれ。明かりを付けるから。」 「・・・・・・」 「・・・?」 「・・・スラン」 は触れていたアスランの肩から手を滑らせ、腕を首に巻きつけた。 アスランはいきなりの彼女の行動に戸惑い、行き場の無い手を彼女を包むようにに持っていく。 背中で絡められたアスランの両手を感じたはより一層腕の力を強めた。 しっかり密着された体にアスランは成す術も無く、ただ彼女を抱きしめる形を続けた。 「・・・アスラン」 「どうした?」 「・・・アスラン・・・」 ・・・自分が何をしたいのか、分からなかった。 ただ、彼の姿が見えなくなった時、どうしようもなく身体が彼を求めた。 唇は、その愛しい名前を求めた。 不安だった。それだけ。 の感情に気付いたのか、アスランは彼女の呼びかけに抱きしめる力を強める事で答えた。 それは彼女の力が弱まるまで続き、ようやく解放された身体は虚無感に囚われていた。 ぐっと彼女の身体を引き寄せ、今度はアスランからのキスを落とす。 「誕生日おめでとう・・・。」 光が必要無くなった部屋からは、衣服が擦れる音だけが異常に響いた。 |