「・・・・・・。」 「とりあえず死ななければ、いいかなと思うの。」 「・・・・・・・・・。」 「・・・ねぇ。アスランは今、どんな気持ち?」 「・・・・・・俺は、欲張りなのかな・・・?」 「ううん。きっとアスランのほうが正しいのよ。 ザフトは、地球軍と戦う為にあるんだから。」 pledge oneself to secrecy PHASE-01 風の吹かない小さな空間の中で、待機していた。 そこはザクの中。ライトも無く辺りは暗い。微かに光るのは、指示を出す小さなモニターだけ。 しかしパイロット達はその光だけを頼りに、多数ある周りのボタンを確認していく。 ピッピッという音と共に、話し声が聞こえ始める。 「」 「はい。」 「はいじゃねぇだろ・・・。」 「クス・・・わかってるよ、ミゲル。ちょっと言ってみただけ。」 「お前・・・からかってんのか?」 クスクスと小さく笑う少女、・。 ミゲルは彼女をリラックスさせる為に話をしているのだが、緊張などしていない様子だった。 今回が初めての戦闘だというのに。 「いくらお前がエースパイロットでも、油断は禁物だ。今回は任務の事だけ考えろ。」 「はぁい。」 「・・・言い方間違ってたみたいだ。任務の事だけは頭に入れとけ。いいな?」 「心配性なんだから・・・。私は大丈夫よ。」 がそう言った瞬間、出撃の合図が出た。 一斉に飛び出していく戦闘機、モビルスーツ。ミゲルもそれに続いて出撃する。 既に数々の爆発音や破壊音が聞こえる中、は口角を上げ、妖しい笑みを見せた。 それは、この時をとても待ち遠しく思っていたかのような表情。 「何機・・・何人殺せるかな・・・ナチュラル。」 そう呟いて、一気に戦場に飛び出していった。 「・・・・・・。」 「お〜い・・・?」 の初任務は終わった。最高の出来で。 だが、戦場から戻ってきたは、機体の中から出てこなかった。 ミゲルは心配になり、無理矢理を引きずり出そうとした。 こういう事はよくある。大抵のパイロットは、最初の戦闘で始めて人を殺す事がほとんどだ。 慣れるまで、耐えなくてはならない。 しかし、この後ミゲルはの奇妙な姿を目撃する事になる。 「・・・30機・・・」 「は?」 「30機しか撃ってない・・・。」 彼女はシートベルトも外さず、操縦レバーを握ったまま下を向いていた。 てっきり泣いていると思ったミゲルは、この言葉に面食らってしまった。 この少女は、人を殺すのを何とも思わないのか。 いや、思わないかもしれない。「ナチュラルを殺す」のは・・・。 むしろナチュラルを殺したくてたまらないというような言い方だ。 「信じらんない・・・こんなに早く撤退なんて・・・。」 「あんま気にすんなよ。最初の戦闘で30機も落とせたのはいい手柄だぜ?」 だがミゲルは、この少女が恐ろしいとは思わなかった。 この世の中にはナチュラルに限らず、どんな人物でも殺す事を躊躇わない、楽しんでいる者もいる。 それに、にはナチュラルが憎いと思う訳がある。 「あ、そうだ。またお金入ったからあげるね。弟君に使って。」 「悪いな・・・。」 「いいの。私が持ってても使い道無いし・・・治療費、まだかかるんでしょ?」 「ああ・・・。」 「頑張ってねって伝えて。あ、曲作ってあげようかな・・・。」 何より、感謝してもしきれない程の恩がある。 今まで彼女に弟の治療費として貰った金は、相当莫大な額になっている。 病気の事を聞いた時から弟を心配してくれている、彼女の優しさもよく知っている。 ミゲルとは、いつか弟に会いに行きたい・・・そんな事を話し、別れた。 は自室に戻る通路を歩いていた。 通りすがりに声を掛けられたりジロジロ見られたりするのは、彼女にとっては日常茶飯事。 正直ここの雰囲気にはうんざりしていたが、にとって自分が居られる場所は限られている。 ずっと居られるという場所は最早此処しかないとも言える。 それを考えると、あまり悪い場所ではないと思える自分がいた。 が信用できる人物は限られている。今ここにいるのは数人、ミゲルもその内の一人だった。 だがミゲルに弟の治療費を渡しているのは、彼女の優しさから弟が心配だからでは無い。 単なる暇つぶし・・・と言えば言い方は悪いが、金の使い道がないのは本当だ。 これから使う予定も全く無いからあげているだけ。 ミゲルに自分を信用させる為でもあった。 彼女のこの行動は全て無意識の内にしている。 結果世の中をうまく渡り歩き、今はザフトのエースパイロット。 もちろんこの地位に上がってきたのは彼女の戦闘の実力あっての事。 だがそれと同等の頭脳も持ち合わせている、天才とも言える少女なのだ。 長い通路を抜け、やっと自室に着いた。 ロックしてある扉を開ける。まず自分のIDカードを傍の差込口にスライドさせる。 ピピッという音がすると、次に1から9まで番号が書いてあるボタンを押していく。 まるでメロディを奏でているようにスラスラと動かす指は、止まる事を知らない。 否、終わらないのだ。 はパスワードの数を普通の何倍も多く設定していた。 理由は簡単。彼女の部屋にはいろいろと重要なものが置いてあるからだ。 そう、ザフトに反逆者と言われてもおかしくない様なモノも。 ・・・そしてもう一つ。 「・・・アスラン。」 部屋が閉まるのを確認し、目の前にいる人物の名を呼んだ。 パソコンに向かっていた彼は、後ろの声にゆっくりと椅子を反転させた。 「初任務はどうだった?」 「ん〜・・・イマイチね。拍子抜けしちゃって調子出なかったわ。」 「弱かったのか?」 「ええ。」 「そうか・・・じゃあ俺も楽勝かな。」 アスランがそう言った瞬間、するりと首に腕が回された。 そして彼女はぎゅっと強くしがみ付くと、耳元でそっと呟いた。 「アスランなら、きっとね。」 アスランが座っている椅子に残っている僅かなスペースに膝を乗せる。 楽な体制になると、軽くキスを交わす。 それは段々と激しいものに変わり、は腕をパソコンへ伸ばした。 ウゥゥン・・・と唸るような音の後、パッと画面が黒く染まった。 まるで、二人を暗闇が包み込むかのように。 悪夢なんて 生まれた時から皆見ている |